2019年3月20日水曜日

農泊体験でまちおこし 中学生からインバウンドまで

 https://www.kobe-np.co.jp/news/odekake-plus/news/detail.shtml?url=news/odekake-plus/news/experience/201903/12163989






 兵庫県豊岡市但東町の住民が、農家で宿泊体験してもらう「農泊」を軸にしたまちおこしに取り組んでいる。2006年からほぼ毎年、神戸市内の中学校から野外教育活動の生徒たちを受け入れ、町内の農家に分宿してもらっている。そのノウハウを生かし、高まる外国人旅行客(インバウンド)からのニーズにも対応する考えだ。(長谷部崇)
 今年1月、中国・深●(しんせん)市の美術学校「楊梅紅(ようばいこう)国際私立美校」の児童・生徒20人が、関西エリアを7泊8日で巡る教育旅行の一環で但東町を訪れた。
 「中国のシリコンバレー」と呼ばれる深●は大都市で、自然との触れ合いが少ないという。近年、中国やマレーシアなどのアジア諸国では、都市部の富裕層の間で子どもに海外を経験させる教育旅行が盛ん。観光地のホテルや旅館に泊まるだけでなく、農泊への要望も多いという。
 深●の子どもたちは、簡易宿所の許可を得ている民家6軒に分宿。稲垣のり子さん(63)は築約100年の自宅に女の子4人を預かった。亜熱帯気候の深●から来た4人は、まきストーブやいろりの火に興味津々。近くのたんたん温泉(同町坂野)に連れて行くと、雪景色や野天風呂にはしゃぎっぱなしだったという。
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 但東町の人口は今年2月1日時点で4146人、高齢化率は42・6%となっている。過疎化が進む中、2006年から地域ぐるみで取り組んできたのが、神戸市の中学2年生が行う野外教育活動の受け入れだ。
 「農村生活を体験させたい」という中学校からの要望に応える形で、町内全域から受け入れ家庭を募り、現在は農家ら約30軒が登録。食事、入浴、就寝、だんらんのほか、一緒にトマトやナスなどの夏野菜を植えたり、川釣りで取れた魚を天ぷらで揚げたりして交流する。市や観光協会など関係団体で、受け入れ主体の協議会も設立し、これまでに9校から延べ1867人をもてなした。
 当初から中学生を受け入れている衣川清喜さん(72)は「星がきれい、川の水がきれい、空気がおいしい、人が優しい…。当たり前のことだと思っていたが、神戸の子たちは目を輝かせて喜ぶ。それこそ地域の魅力だと気付かされた」。幼い孫と遊んでくれた女子生徒が、別れ際に泣いてしまったこともあったという。
 登録家庭では、インバウンドや個人旅行にも対応できるよう、簡易宿所営業の許可取得を進めている。但東シルクロード観光協会の家城聖仁事務局長(46)は「農村部のおじいちゃん、おばあちゃんとの素朴な交流や田舎暮らしの体験はきっと一生の思い出になる。但東のファンを増やすことにもつながるはず」と話す。
【農泊】農山漁村に滞在し、地元の人々との交流や伝統的な生活体験を楽しむ旅行のこと。豊岡市但東町のような教育旅行の分散宿泊は、一般住宅に旅行者を泊める「民泊」に含まれる。民泊には、家主が滞在する「ホスト(家主)居住型」と、空き家などを貸し切りで提供する「ホスト不在型」があるが、教育旅行の分散宿泊はホスト居住型で展開する。
※●は「土」の右に「川」
■移住促進策として注目
 豊岡市但東町のように、農山漁村の民家に少人数ずつ分宿させる教育旅行は、地域振興策として全国各地で盛んに取り組まれている。規模はさまざまだが、将来の移住受け入れ施策としての側面にも注目が集まっている。
 福知山公立大の中尾誠二教授と東京農業大の鈴村源太郎教授は2015年、分宿型教育旅行の受け入れが多い全国67組織にアンケートを実施。年間の受け入れ人数は「1万人以上」が8%に対し、「300人未満」が11%。受け入れ家庭の軒数は「200軒以上」が9%、「30軒未満」が19%と、地域によって受け入れ規模に大きな開きがあった。約30軒の分宿先で年間200~400人程度を受け入れている但東町は、全国的に見れば小規模だ。
 北近畿では、教育旅行の受け入れで府県をまたいだ連携を模索する動きもあり、但東町のほか、朝来市や丹波市、京都府福知山市、京丹後市など近隣7市の関係者が定期的に勉強会を重ねている。
 他道府県では、中高時代に教育旅行で分宿した地域に大人になってから移住する人もいるといい、中尾教授は「Nターン」と表現。「農泊は、農業施策なのか観光施策なのか、どっちつかずの部分もあるが、究極的に見れば移住施策でもある。行政も積極的に関わっていくべきだ」と話す。